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論文・研究内容

 AT2EDプロジェクトでは,障害のある人や高齢者の支援に対する技術利用について,心理学,工学,教育学を融合した先端学際的研究のアプローチを進めています。これらの人々に対する支援ニーズの分析や発掘,最新の支援技術の動向把握,ならびに技術を利用した時の効果を科学的に検証することで,「誰もがその効果に納得して簡単に利用できる未来の技術」と「技術利用による福祉の構図」を提案することを目指しています。ここでいう技術は必ずしも先端的なものばかりではありません。障害のある人だけでなく,様々な困難を抱えるそれ以外の人々の生活環境へと利用を広げる意味でも,パソコンや携帯電話などのむしろ普及の進んだ技術の応用が重要なアプローチとなります。これら基礎技術をどのように利用するかという視点で,障害当事者と共にニーズを明らかにして技術開発を行いながら,現行の社会制度下でそれら技術を利用した支援環境を実現するための提案を行うことが本プロジェクトの特徴です。以下,本プロジェクトの研究例を紹介します。

Talking Wristband


 RFIDタグを応用した情報保障システムで,言語リハビリテーションや記憶補償などへの応用が期待されます。腕時計型のリーダーを用いて対象物に付けられたRFIDタグを読み取り,そのID情報が無線信号でパソコンへと送られます。送られたIDに対応する文字・音声情報が,それぞれパソコンの画面と無線ヘッドセットから出力されるという仕組みです。従来の言語療法が言語聴覚士からの問いかけに答える失語症患者の受動的なものであるのに対して,「Talking Wristband」は,患者自身が物に手をかざし名前の手がかり情報を得るという自発的な活動へと変えることができます。その能動性によって単語の記憶も促進されることも実験で明らかになっており,今後,外国語学習や実空間オブジェクトと連動させたパソコン利用支援といった一般向けの応用も検討されています。
Talking Wristbandの概要の図
Talking Wristbandの概要

デジタルペンを用いた研究


 この研究では,書字や描画行動がリアルタイムに記録される特性を活かして,発達障害による書字の困難の特徴を明らかにし,その診断指標を確立することを目指しています。従来の2次元の書字データに新たに時間情報が加わることにより,書くことが困難な人がどこでつまずき,その後どのような経過をたどって「書く」という行為に至るかの詳細な情報が容易に得られるようになりました。これまでに700名を超える調査データを取得しており,現在その分析を進めているところです。
デジタルペンの図
デジタルペンを用いた書字困難に関する研究

 このデジタルペンを用いた研究の前に行われ、この研究の基礎データになっている小学生が鉛筆を使って文字を書いた調査データ(csvデータ)を公開します。
 河野俊寛客員准教授著作の『子どもの書字と発達 ー検査と支援のための基礎分析』(福村出版 2008年)の元になった、小学生約5,500人分のデータを、<注意事項>を厳守していただける方に、自由に研究に使用していただけるようにします。
 データを使用したい方は、以下のアドレスにご連絡ください。
 kono@bfp.rcast.u-tokyo.ac.jp

<データの説明および使用上の注意>

1.データの説明
ここには以下の4つのファイルがあります。

 readme.txt・・・・・・・このファイル(説明と使用上の注意)
 copy.txt・・・・・・・・視写データ
 dictation.txt・・・・・ 聴写データ
 copy&dictation.txt・・・視写と聴写比較データ

1.1 copy.txtファイル
 レコードは改行で区切られています。レコードの項目は次の22項目です。

  学年
  男女(1:男 2:女)
  有意味無意味(1:有意味 2:無意味)
  利き手(1:右 2:左)
  課題提示方法(1:配布 2:掲示)
  実施順番(1:先 2:後)
  書字数(5分間)
  促音誤り数
  拗音誤り数
  長音誤り数
  拗長音誤り数
  撥音誤り数
  助詞誤り数
  濁音・半濁音誤り数
  文字誤り数
  語・文節誤り数
  行とばし誤り数
  字形誤り数
  句読点誤り数
  記号等誤り数
  誤り総数
  修正数

 以上の22項目は、それぞれ半角のカンマで区切られています。

1.2 dictation.txtファイル
 レコードは改行で区切られています。項目は次の18項目です。

  学年
  男女(1:男 2:女)
  有意味無意味(1:有意味 2:無意味)
  利き手(1:右 2:左)
  書字数(3分間)
  正確書字総単語数(3分間)
  正確書字2文字単語数
  正確書字4文字単語数
  正確書字6文字単語数
  正確書字8文字単語数
  脱落2文字単語数
  脱落4文字単語数
  脱落6文字単語数
  脱落8文字単語数
  誤り2文字単語数
  誤り4文字単語数
  誤り6文字単語数
  誤り8文字単語数

 以上の18項目は、それぞれ半角のカンマで区切られています。

1.3 copy&dictation.txtファイル
 レコードは改行で区切られています。項目は次の57項目です。

  学年
  男女(1:男 2:女)
  利き手(1:右 2:左)
  視写有意味書字数(5分間)
  視写有意味促音誤り数
  視写有意味拗音誤り数
  視写有意味長音誤り数
  視写有意味拗長音誤り数
  視写有意味撥音誤り数
  視写有意味助詞誤り数
  視写有意味濁音・半濁音誤り数
  視写有意味文字誤り数
  視写有意味語・文節誤り数
  視写有意味行とばし誤り数
  視写有意味字形誤り数
  視写有意味句読点誤り数
  視写有意味記号等誤り数
  視写有意味総誤り数
  視写有意味修正数
  視写無意味書字数(5分間)
  視写無意味濁音・半濁音誤り数
  視写無意味文字誤り数
  視写無意味語・文節誤り数
  視写無意味行とばし誤り数
  視写無意味字形誤り数
  視写無意味句読点誤り数
  視写無意味記号等誤り数
  視写無意味総誤り数
  視写無意味修正数
  聴写有意味書字数(3分間)
  聴写有意味正確書字単語数(3分間)
  聴写有意味正確書字2文字単語数
  聴写有意味正確書字4文字単語数
  聴写有意味正確書字6文字単語数
  聴写有意味正確書字8文字単語数
  聴写有意味2文字脱落単語数
  聴写有意味4文字脱落単語数
  聴写有意味6文字脱落単語数
  聴写有意味8文字脱落単語数
  聴写有意味2文字誤り単語数
  聴写有意味4文字誤り単語数
  聴写有意味6文字誤り単語数
  聴写有意味8文字誤り単語数
  聴写無意味書字数(3分間)
  聴写無意味正確書字単語数(3分間)
  聴写無意味正確書字2文字単語数
  聴写無意味正確書字4文字単語数
  聴写無意味正確書字6文字単語数
  聴写無意味正確書字8文字単語数
  聴写無意味2文字脱落単語数
  聴写無意味4文字脱落単語数
  聴写無意味6文字脱落単語数
  聴写無意味8文字脱落単語数
  聴写無意味2文字誤り単語数
  聴写無意味4文字誤り単語数
  聴写無意味6文字誤り単語数
  聴写無意味8文字誤り単語数


 以上の57項目は、それぞれ半角のカンマで区切られています。


2. データの使用については、以下の点に留意してください。

1)本データの著作権その他一切の権利は河野俊寛にあります。
2)本データの著作権を侵害する行為は禁止するものとします。
3)本データを複製、販売、貸与、その他頒布、送信可能化、公衆送信、再使用許諾、営業使用することはいずれもできないものとします。
4)本データの使用の結果から生じた利用者のいかなる問題についても、著作権者及び本サイトには賠償する義務はないものとします。
5)本データの利用による成果を公表する場合は、本データを元に書かれた『子どもの書字と発達 ー検査と支援のための基礎分析』(河野俊寛 福村出版 2008年)を、参考文献として明記するものとします。

OSKA(On-Screen Keyboard Assistant)


 マウス,タッチパッド,ジョイスティック,ゲームパッドなど,身近な入力デバイスを使用してキー入力することのできるオンスクリーンキーボードです。特に手の可動範囲の小さいユーザ向けにタッチパッド上の指のわずかな動きだけで縦・横方向に順に選択枠を移動してキー選択できる機能や,テンキーの2つのキー組み合わせで文字入力できるキーレイアウトなど,新しい機能が備わっています。
OSKAの画面
オンスクリーンキーボードOSKA

e-PP(Electronic Personal Profiler)


 障害のある人が,家族や支援者の協力を得ながら自らの支援情報やコミュニケーションに役立つプロフィールを発信し(例えば「肯定の合図は眼を閉じる」など),それを他の関係者が携帯電話を用いて容易に引き出すことのできる支援情報共有システムです(http://e-pp.org)。ヘルパーが初めて訪れる障害のある人の支援に関する情報を,訪問途中の電車やバスの中で確認できるといった利用が想定されます。e-PPは障害や支援に関する先行情報を提示することで,不必要な誤解や不安の軽減が期待できます。また,ウェブ上の外部情報と連携し,支援におけるコミュニケーションの話題提供に利用することも活用法の一つです。
e-PPシステムの概要の図
e-PPシステムの概要

AT2ED(エイティースクウェアード)


 本ウェブサイトが持つオンラインデータベースであり,日本国内で入手可能な福祉情報機器に関する情報を集めています。その特殊性ゆえに家電製品のようにどこの店にもあるわけではない福祉機器に関する情報を,誰もが容易に得られるようにすることを目的に,最新情報を常時追加・更新しています。この「AT2ED」に集められた情報から福祉機器へのニーズや市場の最新動向を把握し,機器利用効果の科学的データと連携させることで,先端技術シーズを持つ研究機関や企業に対して新製品開発への提案を行うことができます。
AT2EDのウェブページ図
福祉情報製品情報データベースサイトAT2ED

ICTアクセシビリティテキスト


 携帯電話やパソコンには,障害のある人に役立つ機能がすでに多く含まれており,それらの利用に関する調査や利用促進も研究教育活動として行っています。例えば上肢に障害があってーボードを利用することができない人が,マウスだけで文字入力できるソフトウェアキーボードなどが,すでに標準でOSに備わっています。ところが,こうした機能の存在が十分に知られていないために活用されていない場合も少なくありません。そこで,肢体不自由,視覚障害,発達障害など,様々な障害のある人に役立つパソコンのアクセシビリティ機能とその利用方法について,企業と連携して教科書にまとめ,カンファレンスやセミナーの開催を通じて全国に紹介してきました。この教材の英語版は,マイクロソフトとユネスコが発表したカリキュラムを通じて,アジアや北欧の国々でも利用されています。
ICTアクセシビリティテキストの図
ICTアクセシビリティテキスト(英語版)

 また,これらのアクセシビリティ機能は,東京大学先端研が主催する障害のある高校生の大学進学を支援する活動「DO-IT (Disabilities, Opportunities, Internetworking, and Technology) Japan」でも紹介され,彼らの学びに活かされています(http://doit-japan.org)。これらの若者を含めて,技術の活用が困難を抱える様々な人の能力を高め,多様性を受け入れる社会を育むことに役立つことを私たちは願っています。
DO-IT Japanプログラムでの一場面
DO-IT Japan障害のある高校生のための大学体験プログラムでの一場面